きなかった。三畳のシシド君の存在が気がかりで仕様がない。オタツに首をしめられた復讐に、深夜に起き上って、殺しに来やしないかと心配でたまらないのだ。
ところが、三畳からはシシド君の大イビキがきこえる。このイビキが曲者。大イビキと見せて、眼をあけているのかも知れない。
ところが、また、ドロボー君のすぐ隣にはオタツがこれも大イビキでねている。このイビキはまがう方ないホンモノだ。もうこうなったらオタツの奴、つねっても、ぶっても、目をさますものではない。
シシド君がイビキをかきかき唐紙をあけて忍びこんで来やしないかとマンジリともしないうちに、夏の夜が明けはじめた。
「ヤレ、イノチ拾いをしたか」
と、ドロボー君、ソッと唐紙をあけてのぞいてみると、シシド君、狸ねいりどころか、オタツよりももっと深々と熟睡しているではないか。
実にもうダラシのない寝姿。胴体も手も足もめいめい思い思いに不可解きわまる曲線をえがき、鼻からはチョーチン、口からは三原山の熔岩のようにおびただしいヨダレをながしている。こんなに完ペキに威厳のない寝姿というものが、めったに見られるものじゃない。
「ウームこのダラシない男を
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