めた。
「ギャッ!」
という奇声を発して、ただの一シメによってシシド君はもろくものびてしまった。いささかも劇的なところがない。蛙がワナにしめられて、のびたようなものであった。
おどろいたのは、ドロボー君。一気に酔いもさめ果てて、
「オタツ、お前、殺したじゃないか」
「死んだって、かまうもんかね」
「待てッたら」
「ナニ。死んだらバラバラにして捨てちゃえばいいよ」
「たのむ。オイ」
ようやくオタツの手を放させて、シシド君の首から手ヌグイをほどく。この時ばかりは指先の魔術も魔力を失い、まったくシドロモドロだ。大急ぎでバケツの水をもってきて、ぶッかける。シシド君、静々と生き返った。
「ワアー生きた。ありがたい。助かった」
と大感激。思わず腰がぬけるほど張りつめた気持がゆるみ、うれし涙が頬をつたう。しかし、感きわまっているのはドロボー君ただ一人である。生き返ったシシド君も、殺しそこねたオタツも、何事もなかった如くに、いささかも取り乱した様子がない。シシド君はヒシャクの水をぶッかけられたと同じだけの反応を呈しているにすぎないのだ。
★
ドロボー君はその晩一睡もで
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