は大望に生きる人だ。ねえ、その望みを打ちあけて下さいな。私にも一口張らせて下さいな。私は全財産を投げだしてダンナにはろうじゃないか。その代りダンナが望みをとげたら、オレを一のコブンにして下さい。ねえ、ダンナ」
「…………」
 きこえるのか、きこえないのか、シシド君、半眼、相手になろうともしない。
 この有様に怒髪天をついたのはオタツであった。天下ただ一人の男とたのむ亭主が両手をついてシドロモドロであるから、かくもウチの人をたぶらかす化け狸め、もうカンベンならねえと、便所の手ヌグイをもちだすや、リュックのうしろへまわり、それにもたれてウツラ/\のシシド君のクビへ便所の手ヌグイをまきつけて、
「この野郎、ナマイキな。ウチの人に手をつかせやがって、挨拶一ツしねえか。それほどお前が偉いかよ。偉いか、偉くないか、オレが正体見とどけてやる。さア、どうだ」
 片ヒジでシシド君のクビを起し、ゆっくり手ヌグイをまきつける。シシド君、されるままに逆らいもしない。もっとも、オタツが何をするか。オタツ以外の人には見当がつかなくなったのである。
「エイッ!」
 手ヌグイをまくと、オタツはいきなり力いっぱい首をし
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