すよ。でもねえ、お前さんがヤキモチをやいてくれると思うと、とても嬉しいと思うんだよ」
「そうか。オレがわるかった。どうも、淋しくッて、いけねえなあ。なんだか、ゾクゾクッと寒気がして、オレがたった一人ぼっちで青天井の野ッ原のマンマンナカへ放りだされたような気がして、たよりなくて仕様がねえや。オレはもう根こそぎ自信がありやしねえや。天下の奴らはみんなオレより偉いんだ。オレの人相のメキキは、もう衰えたらしいぜ。それにひきくらべて、あの野郎は凄い野郎だ。どう考えてもタダモノじゃアねえや。そこんところが、オレにはモウ力が及ばなくなったらしいや。オレはもう人生の敗残者だなア」
「およしよ。あんな唐変木のためにお前さんが泣くのかえ」
「唐変木どころじゃないや」
ドロボー君は立上ると三畳へやってきた。シシド君の前へ坐ると頭を下げて、
「ダンナ。失礼いたしました」
「…………」
「お見それ致しました」
「…………」
「私ゃもうダンナにオレの仕事を手伝ってくれなんてケチなことは申しません。ダンナはタダモノじゃアねえや。野心のある人だ。大きな望みのある人だ。ねえ、そうでしょう。私ゃチャンと分るんだ。ダンナ
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