思ひあがつた表現にしても、やつぱりタツノの稚拙な色情のあらはれだつた。安川がタツノに××を燃やさぬうちはべつだん心にかからぬことで、よしんば××を燃やすにしてもその××のなかつたうちは、それを驕慢の花ともよんで、色も匂ひも感じることができたのである。それはむしろ驕慢の泥であつたと思ひつかずにゐられなかつた。タツノの眼付がもはや色情一方の、ほかには別の人生のない××だけの光を宿して、彼の一挙手一投足を思ひもよらぬ所からヂッと見つめてゐるやうな、無智傲慢な執念深い情痴を感じ、森の妖婆か山蛭《やまひる》にでも執着されてゐるやうな、毒血のしたたる思ひに悩んだ。
 日盛りに、人気のない部屋の中でふッとタツノにでつくはすと、タツノは鈍いどんよりとした瞳の底にくすんだものをみなぎらせ、彼をぼんやり見つめはじめるのであつた。安川がタツノの視線を睨み返すと、タツノは忽ち鼻皺をきざみ、最初の一日の寝姿のやうに、今にも××××××××××××××××××××だつた。安川は泣きたいやうな思ひがした。いきなりタツノの首をしめ、ぐいぐい押しつけたあげくのはてが、押入から力まかせに蒲団を一枚ひきずりだしてタツノの頭
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