老嫗面
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)異体《えたい》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)異臭|芬々《ふんぷん》たる
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)きやん/\
×:伏せ字
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初夏のうららかなまひるであつた。安川はタツノの着物をつめこんだ行李を背負つて我家へむかつた。安川のうしろには、タツノが小さな手荷物をさげ、うはづつた眼付をしてぼんやり歩いてゐた。タツノのうしろには彼女の三人の朋輩が、一人はあくどい紫色の女持トランクをぶらさげ、あとの二人は異体《えたい》の知れない大包のみそれぞれ一端をつるしあげながら、からみあつてねり歩いてきた。露路の奥から子供の群が駈けだしてきて声援しながら見送るほどの盛大な引越であつた。
小さな酒場の女主人が駈落した。誰知らぬうちに店の権利を売つてゐたので、翌日から主人が変り、三人の女給が難なく居残ることになつたが、駈落した前主人の姪にあたるタツノの処置に人々は困つた。
タツノは肺を病んでゐた。二十一才であつた。癇癖が強く、我儘で気まぐれだ
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