の筈です。いはばタツノを引取ることは、ひとつの無意味を引取ることにほかなりません。つまりそこが彼自らも気付かざるこの行動の急所であり鍵でもあります。彼は自分に無意味な課題をおしつけやうとしてゐるのです。それによつて生存する自分自身の姿を見たり、または自分の生命とでもいふものを意識しようといふのですよ。無意味によつて意味らしきものをつくりだすこの惨めなカラクリのほかに、我々はさう易々と自分自身の生存を生命を意識する方法をもとめることができないのです。しかも彼には仲のわるい母親もあり、あなたもあります。あなたや母親がタツノに親切な筈はないから、彼はタツノを養ふために家庭といふ古い秩序と戦つたり、とにかく大きな努力を払ふ必要があります。家庭の破壊を賭け、ひいては自身の破壊すら賭けることの苦痛と混乱によつて、生きる意味と情熱を認識しようといふ、これも亦彼自らの気づかざる、あるひはむしろ知りすぎるほど知りぬいた、悲惨なカラクリのひとつでせう。最も無意味な課題によつて秩序や習慣と争ひ、ただ情熱と混乱をもたらすことが必要だつたにすぎないのです。軌道を忘れた浪曼精神の魔術ですよ。然しこんな情熱や浪曼的
前へ
次へ
全40ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング