たしをこんなにしてしまつたのだ。わたしの睡つてゐるうちに汚い魂にすりかへたのだ。

 タツノ一行の襲来にはじきだされた松江は、雑草の繁みをよけながら、広場の中をぐるぐるまはつて口惜し泣きに泣いてゐた。あの悪党はひとをどこまで虐めつけたら気がすむといふのだらう。昔は人を死刑にしても憎み足りない気持の時は屍体に侮辱を加へたといふが、安川が自分に与へる侮辱にはまさしく自分の×××××××××××××××××××××××××××××、蛇にいちばんふさはしい残忍さだけ感じられて、その恐しさにぶるぶる顫へてしまふのだつた。
 逃げださう、と松江は思つた。どこへ逃げてもどうせ目当はないのだから、夜が落ちればいやでも帰らねばならないのだが、逃げたいといふ気持だけは追はれるやうに激しかつた。とにかくそれを処理しなければ我慢がならないのであつた。遠山のところへ逃げて行かう。行つてみんな話してやらう、あの悪党のしたことを、と松江は思つた。彼女に元気と悲しさが、ふと改めて流れてきた。
 遠山の住む汚い下宿は土足で階段を登るのだつた。その階段はどんなにソッと歩いても、気の遠くなる思ひがするほど金属質のたまらぬ音
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