箱につめて、辻に立って、
「東西々々。チョーセイ元祖の梵字センベイ。わけのわからない字のようで、わけのわかる字もある。わけのわからない字をよオく見ていると、わけがわかるようになるし、わけのわかる字もよオく見ていると、わけがわからなくなる。睨めば睨むほど、ハッキリとして又もやボンヤリとするマジナイの文字。これを朝に五枚夕べに五枚、日に十枚ずつよオく睨んでからポリポリとたべる。御利益は良い子宝にめぐまれる。寝小便がとまる。精がつく。石頭が利巧になる。オタフクの鼻がとんがって少しずつ美人になる。よいことずくめで、悪いことは一つもない。ポリポリポリポリとかじりながら願をかけると、よろずかなわぬものはないぞ。さア、たべり。チョーセイ元祖の梵字センベイ」
 売れるわ、売れるわ。羽が生えて飛ぶように売れる。たちまち産をなした。そこで新居の隣に道場をつくった。センベイ焼きのヒマに文武両道を教えるツモリかなと思うと、大マチガイで、ここで子供たちを勝手に遊ばせておく。なるほど、遊び場所が必要なわけで、村のガキどもが全部集って押すな押すなの盛況であるから、運動場がないと始末がつかない。順番にセンベイをやいた
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