キ使うのをやめるか、やめないか、ハッキリ返事をきかせてもらおう」
「アッハッハ。子供というものはタワイもないもので、ハゲミをつける方法を講じておかないといけない。オジジは、失礼だが、田舎ずまいの世間知らず。世道人心にうといな。オレにまかせておけば文武両道、仁義忠孝をわきまえた一人前の人物に仕込んでやる。そろそろ仕込んでやろうか」
「おジジとは無礼千万な奴だ。なにが、文武両道だ。このホラフキめ。仁義忠孝がきいてあきれるわい。そんなら、きっと、仕込んでみせるか」
「どのぐらい仕込んでやろう。四書五経、史記などは、どうだ」
「大きなことを言うな。名前が書けて、ちょッとした用むきの手紙が書ければタクサンだ。今は八月だが年の暮までに仕込んでみせるか、どうだ」
「お安い御用だが、オジジも慾がないな。ほかに注文はないかな」
「生意気なことを云うな。やりそこなッたら、キサマ、村構えにするから、そう思え」
「アッハッハ。心得た」
 翌日から子供たちに、日に五ツずつ字を教えて、センベイに書かせる。
「チョーセイ、チョーセイ、フノ字ノ番ダヨ、チョーセイ、チョーセイ」
 こう唱えてやらせる。できたセンベイを重
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