てしまう。
「ワア。すごいな。でもなア。ブンさんでも、雀はとれねえな」
「なんだと。どこのガキだ。とんでもないことをぬかしやがったのは。このガキめ、見てろ」
 モチ竿をつきだして、庭の木の雀にニコニコと竿を近かづかせて、
「チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ」
 チョイ、チョイ、チョイ、と近かまへ持って行くが、雀はキョトンとしてジッとしている。なんなくモチにかかってしまった。
「どうだ。このガキども」
「ワア。おどろいたな」
 子供たちの人気は大変なものである。坊主は寺小屋には手をやいていた。百姓の子供に文字を教えても仕様がないが、庄屋の長兵衛がうるさい老人で、雪国の百姓は冬出稼ぎにでる。他国へ行って文字の一ツも読めなくては不自由であるし、多少とも素養があると、人間、礼儀をわきまえる。百姓だからといって文字を知らなくていいという道理はない。手紙の用が足りるぐらいは覚えておきなさい。こういうわけで、坊主は寺小屋を押しつけられたが、村のガキどもは野良とお寺の区別なく鼠のようにあたけて寺のいたむこと。おまけに無給のサービス、一文の収入にもならない。農村では七ツ八ツになると、多少の
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