り、肥ダメの中へ突き落して、
「ホレ。チョーセイ。チョーセイ」
蜂どもを棒の先でなだめて、ニコニコ笑いながら戻ってきた。
「あんた、本当に、どこもやられなかったのか」
「アッハッハ。ほれ。ごらんの通りだよ」
ホラブンは帯をといて、ハダカになって、全身を裏表あらためて見せた。胸板は厚く、二枚腰、よく焼きあげた磁器のようなツヤがあって、見事なこと。
「フーム。豪傑のカラダには蜂がたからないと見える。フシギなことだ」
「なアに。虫は人間のカラダを怖れてたからないのが自然なのさ。ひとつもフシギなことはない」
ホラブンは、大そうケンソンなことをいって、すましこんでいる。
「ブンさん、強いなア」
と、寺小屋の小僧どもは感服して、
「蜂でも山犬でもブンさんを見ると逃げてしもうぞ」
「バカ言うな。虫も山犬も、みんなオレの仲よしだ。オレの顔を見ると、イラッシャイと云って、逃げるようなことはしない。ほれ、見てろ」
子供のモチ竿をかりて庭へでて、杏の木の蝉にむかって、
「チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ」
チョイ、チョイ、チョイと、竿の先をふるわせて近づけると、何匹でも蝉がくッつい
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