から、やめなさい」
「ナニ、大丈夫」
「コレ、ブンさんや。アレ、行っちゃった。こまったな。悪い人にたのんでしまった。オーイ。子供たちはみんなこッちへ来い。本堂の中へあつまれ。顔をだしてはイカンゾ。大変なことになるぞ」
あの大男が熊蜂の総攻撃をうけて、ふくれ上って死んだぶんには、葬式はお手のものでも、棺桶に一苦労しなければならない。お寺の障子をしめきって、細目にあけて、ナンマンダブ、ナンマンダブ、ふるえながらのぞいていると、ホラブンは何の構えもなくノコノコと門の下へ行って、棒をつきだして、
「チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ」
浜の漁師がイワシ網をあげているような至ってノンキなカケ声をかけながら、チョイ、チョイ、チョイ、と棒の先をふって、たちまち蜂の巣を落してしまった。
熊蜂はワッと真ッ黒にむらがって、門の下一面にまいくるっているが、ホラブンの身体にはフシギにたからぬようである。目の前に熊蜂がワンワンむらがるのに彼はちッとも気にとめず、
「チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ」
チョイ、チョイ、チョイと、棒の先で蜂の巣をころがすこと五十|米《メートル》あま
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