う気品と才気がこもり、大そうおだやかで、いつもニコニコしていた。
彼は大そう学があった。町から大工をたのんで、小屋をつぶして、立派な家を新築したが、その出来上るまで、お寺に泊りこんで、坊主に代って、寺小屋へあつまる小僧どもに詩文を教えた。
又、彼には色々の芸があった。
お寺の門に熊蜂が巣をかけている。この巣は直径一尺五寸もあって、子供たちは門を通過するのに一苦労であるが、坊主は至って弱虫で、殺生はいかんぞ、蜂に手をだしてはイカン、ナンマミダブ、ナンマミダブとふるえながら門の下を走って通っている。
「和尚さんは熊蜂を飼っていなさるのかね」
「そうではないが、実は怖しくて十何年というもの手が出ない。これがあるばッかりに、この十年どんなに心細い思いをしているか分らない。ひとつ、なんとかしてくれまいか」
「お安い御用さ」
ホラブンは竹竿を一本もって気軽にでかけようとするから、
「ブンさんや。それは、いかんな。どうも、あんたは、長の江戸ぐらしで、田舎のことには素人らしいな。蜂というものは棒を伝って手もとへ忍んできて、ワッととびかかってチクリとさす。熊蜂にやられると死んでしもう。棒は禁物だ
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