水茶屋だか遊芸小屋だかで名を売ったあげく、さる大家の妾になったという。イヤ嘘だ、イヤ本当らしい、と村でも真偽定かではないが、ホラブンはおかげで子供の時から、敬遠されて、遊んでくれる友だちがない。時々村の子供と大喧嘩して、ナグリコミをかけると、相手は三十人ぐらいかたまって逃げまわり、大人もソッポをむいて知らん顔をしたり、一しょに逃げまわッたりした。
 ホラブンは十二の年に村へ渡ってきた獅子舞いの一行に加えてもらって江戸へ行った。越後獅子の国柄で、獅子舞いは一向に珍しくはなかったが、その年の一行には唐渡《からわた》り秘伝皿まわしというのが一枚加わっていて、彼はこの妙技にほれこんだのである。
 すぐ戻ってくるだろうと、誰も気にかけていなかったが、それから二十五年間、戻らなかった。両親は死んで、その小屋は羽目板が外れ、ペンペン草が生え繁り、蛇や蜂や野良犬の住家になっていた。
 ホラブンが戻ってきたのである。
 彼はお寺へ泊めてもらって、村中へ挨拶して歩いた。六尺有余、見上げるような大男、立派な身体である。姉たちがそうであったように、彼も幼少から美童であったが、戻ってきた彼は由比正雪もかくやと思
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