里人の鳥刺しの手を加えて工夫いたしましたが、別に流名はございません」
「しからば、貴殿が開祖でござるな。鳥刺しの手をみて工夫せられたと申すと、貴公は槍術でござろう」
「イエ、モチ竿でございます。手前は剣も槍も使ったことがございません」
石川淳八郎、ホラブンの返答がチンプンカンプンで、わけがわからないから、ままよ、問答無用、手合せが早手まわしと見て、
「殿の御所望である故、卒爾ながら一手御教示おねがい致す」
淳八郎はキリキリとハチマキをしめて、面小手をつける。ホラブンは鼻の脇を人差指でかいて、
「こまッたなア。オレは人間を刺したことがないが、しかし、まア、刺して刺せんこともないかも知れん。ひとつ、やってやれ。家老様にお願い致しますが、モチ竿をかしておくんなさい」
モチ竿をとりよせてもらッて、仕方がないから、立ちあがる。
「面小手は、いかがいたす」
「そういうものは、いりません」
「殴られると、痛いぞ」
「どうも仕方がございません。そういうものを身につけたことがございませんから、かえって勝手が悪うございます」
「コレ、コレ。もそッと前へでて立ち会いをいたせ」
「いえ、そう前へでてはい
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