山犬は進退敏活、隙を見てかかるに鋭く、目録ほどの使い手に相当いたす。目録十名にとりまかれては、一流の使い手も太刀先をしのぐのは容易の業ではござらん。かのチョーセイ、チョーセイは、十匹の山犬を赤子をねじふせるように易々とねじふせてしまい申した。まことに稀代な神業でござった」
こう云って、源左が殿様に吹聴したから、殿様は大そう喜び、当藩の剣術師範、真庭念流の使い手、石川淳八郎をよんで、
「チョーセイ、チョーセイの手のうちを験《ため》してみよ。目録十名の使い手にとりまかれて、赤子のようにねじふせる手のうちであるから、その方も油断いたすな」
「心得申した」
面小手の用意をととのえ、ホラブンを御前へ召しよせる。聞きしにまさる偉丈夫。何クッタクなくニコニコして、大そう愛想がよさそうである。
淳八郎がホラブンに向って、
「しからば、一手お手合せを願い申すが、貴公は何流でござろう」
「これは、どうも恐れ入りました。手前のは唐渡り祥碌流という皿まわし、それから、海道筋を興行中に、彦根の山中にて里人から習い覚えた鳥刺しの一手、その後に美濃、熊野、阿蘇、伊賀、遠江、甲斐、信濃、阿波等の山中に於きまして
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