上まッすぐさしぬくように突き閃いて、電光石火、横に虚空を切りはらう。山犬はハッと一かたまりにうずくまって目をとじ、前肢に目をかくして、虫のようにすくみ、死んだように動かなくなってしまった。
 ホラブンはモチ竿をぶらさげてニコニコもどってきた。
「イヤハヤ。雀とちがって、山犬は疲れるわい。犬はどうしてもモチ竿にかからんもんだて。イヤハヤ、一手狂うと、庄屋のオジジに糞をまかれるところだった」
 非人頭の段九郎。山犬のカタキをうつどころの段ではない。ホラブンの威にうたれて、顔色を失い、しびれたようになっている。
 人だかりにまじって、この一部始終を見ていたのが、遠乗りのついでに祭礼を見物にきた家老の柳田源左である。舌をまいて、驚いた。若党をかえりみて、
「コレ、コレ、あれなる偉丈夫は何者であるか、きいてまいれ」
「ハ。きかなくとも、分っております。ちかごろ城下でも高名なチョーセイ、チョーセイのアメ売りでござる」
「左様か。これへつれてまいれ。殿に推挙いたしたら、大そうお喜びであろう」
 こういうわけで、ホラブンは源左につきしたがって、殿様の前へつれて行かれた。

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