である。山犬は竿の先に向って吠えるだけで、とびかかることができない。
「ホレ。チョーセイ。チョーセイ。ホレ。チョーセイ。ホレ。チョーセイ。チョーセイ」
十匹の山犬は一様にシッポをたれて、後足の中へシッポをまきこんでしまった。大きな口をあいて、長い舌をだして、苦しそうに息をしている。疲れきった時の様子である。もう吠える力はない。モチ竿の先端を見ている犬の目は、恐怖と、アワレミを乞う断末魔の目である。
「ホレ。チョーセイ。ホレ。チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ」
山犬は一かたまりに口をあけノドをふるわせて、恐怖のあまりに泣きだしそうだ。ホラブンのヘッピリにあやつられつつモチ竿は寸一寸と前進する。犬はジリジリと悲しい息の音をたてながら後退する。境内を出外れて藪へかかったが、モチ竿の前進はやまない。非人小屋をも過ぎると、犬は目立って絶望した。もはやポタリポタリ涙を流している。モチ竿はまだまだキリもなく進む。ついに前の一匹が空を見上げてクビと肩をふるわせて悲鳴をあげたのを合図に、十匹がひとかたまりに、すくんで、ガタガタふるえた。その瞬間、
「エイッ!」
モチ竿の一閃。山犬の頭
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