の屋敷に糞をまかせて何百年間寝る瀬がないようにしてくれるから、そう思え」
「ホ。そうか。ドレ。ドレ。ホ。山犬があたけてけつかる。よし、よし。オレがしずめてやろう」
大そう気を入れて、たのまれなくても、という打ちこみ方。彼の顔はかがやいている。
「オ。千吉。コラ、このガキ、きこえないか」
ホラブンは村中の子供の名前を一人のこらず知っている。みんな友だちだからである。
「ホラ。千吉テバ、ブンさんがウナこと呼んでるろ」
「なんだね」
「モチ竿かせ」
千吉のモチ竿をかりて、ちょッと一ぺん、ふってみて、出かけて行く。
「アレ。あの野郎。蝉とまちがえてやがる。何をするつもりだろう」
ホラブンが出陣したから、段九郎は先へ廻って、山犬をケシかける。十匹が一とかたまりに、ホラブンめがけて襲いかかろうとする。
「オットット」
ホラブンはヘッピリ腰にモチ竿を犬の方へつきだして、竿の先をチョイ、チョイ、チョイ、とゆさぶりながら、
「チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ。チョーセイ」
右にまわし、左にかえし、後へひき、前へだす。モチ竿の尖端が、生あるごとくに、微妙に震動して、何ごとか話しかけているよう
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