かせて何百年も住めないようにしてくれるから、そう思え」
「ワー。オモッシェ[#「オモッシェ」に傍点]なア」
 というのは、ワー、オモシロイナア、ということである。舌のまわらない子供じゃなくて、オヤジどもが喋っているレッキとした大人の言葉なのである。
「こう言われると後へはひかれないから、奴が山犬をしずめにゆく。それをみて段九郎が山犬をケシかけるから、たちまち十匹の山犬がホラブンにとびかかって、ところきらわず噛みついてしもう。いい加減のところで段九郎が山犬をしずめてくれるから、ホラブンの奴め、一命は助かるけれども、全身血だらけの重傷はまぬがれないな。これで奴めは、顔向けができないから、家をたたんで、夜逃げをしてしもう」
「そうだ。そうだ。それが、いッち、いいがんだ」
 と、皆々大そう喜んだ。
 祭礼がきたので、長兵衛は自ら段九郎のもとへ赴いて、密々に相談する。段九郎が快くひきうけてくれたから、例を破って神社の裏の藪へ非人小屋をかけさせて、前夜には、酒や米を存分にふるまってやった。
 当日は秋ばれの一天雲もない好天気。田は上々のミノリであるから、あとはトリイレを待つばかり、心にかかる雲もな
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