のだな」
「大ごとら。あんたどうしてくれるねー」
「オーイ。段九郎。早く犬をしずめろ、と云うと、段九郎が蒼くなって、イヤ、オレはダメら。ウッカリ忘れていたが、山犬は太鼓の音を耳の近くにきくと気がちがってわけがわからなくなってしもう。オレが止めに行っても噛まれてしもう。仕方がないから、四人五人食べられてもらおう。食べるだけ食べれば、気がしずまる」
「馬鹿《ウスラ》げな。あんたが食べられて了いなれや」
「そのときオレが段九郎の手をひッぱッて、ホラブンのとこへ駈けつける。奴めは村の大祭だから、ここがもうけドコロと、十日も前から村の子供にセンベイをシコタマやかせ、アメの一石もこねて、境内の広場に店を構えてけつかるに相違ない。そこへオレがとんで行って、ヤイ、ホラブンめ。お前は日頃野の鳥も山の犬もオレの友達だからモチ竿をつきだすとみんなおとなしくなってオレのモチにかかると言っていたな。まさか後へはひくわけにはいくまい。さ、あの山犬をしずめてこい。段九郎や。お前からも、よく、たのめ。それ、段九郎もたのんでいるぞ。まさか、できないとは言うまいな。出来ないと言うたら、段九郎の配下どもにウヌの屋敷へ糞をま
前へ 次へ
全26ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング