は遠慮して出てこない慣例になっている。段九郎だけが当日に限って紋服を許され、祭礼の世話人席に控えることになっている。オレが思うには、段九郎の手をかりて、ホラブンを退治してやろうと思うが、どうだえ」
「なるほど。雀とりの競争をやらせて、負けた方を、くらすける」
「ただくらすけるぐらいでは仕様がない。お前たちも知っての通り、段九郎の山犬は狼の一族だ。あの山犬の遠吠えをきくと、村や町の飼い犬は小屋へ隠れてふるえているということだ。今年は四年目の大祭であるし、何十年来の豊作だから、特にさし許す、と称して、段九郎の配下と山犬をお諏訪様の裏の藪へ小屋がけさせる」
「それは大ごとら[#「大ごとら」に傍点]。参詣人が山犬に食べられてしまうがね」
 大ごとら、というのは、大変だ、ということである。
「山犬は段九郎になついているから、命令がなければ人にかみつく心配はない。四年目の大祭には近郷近在から参詣人があつまる。ちょうど稚子舞いの始るころが、参詣人の出盛りだな。ドン、ドオン、と大太鼓を打ちならす。いよいよ稚子舞いが始まるところだ。そのときワアッという騒ぎが起る。十匹の犬があばれて、境内へとびこんできた
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