野郎のウチへ押しよせる。野郎の屋敷をたたきこわして、川へぶちこんでしまえ」
「そうだ。そうだ。野郎逃げやがったら、ぼったくって、天ビン棒でしわぎつけてやれ。ころんだところをキンタマしめあげて、くらすけてから、ふんじばって村の外へ捨ててしまえ」
 ぼッたくる、というのは、追ッかける、という意味である。殺気横溢、大そう乱暴な雰囲気であるから、長兵衛が一同を制して、
「待たッしゃい。待たッしゃい。手荒なことをしても、なんにもならない。ホラブンは金があるから、再び、村へ戻ってきて屋敷をつくれば元のモクアミ。腹イセに村の子供をたきつけて、どんな悪さを企むか分らない。子供に火ツケでも教えこまれると、村が灰になってしまうぞ」
「それは困ったこんだ」
「さア、そこだ。奴めが自然村に居たたまらないような計略をめぐらさなくちゃアいけない。例年通り、お諏訪様の祭礼がちかづいたが、知っての通り、この祭礼に限って藪神《やぶがみ》の非人頭段九郎が境内を宰領することになっている。段九郎は配下の非人二十人と山犬十匹をつれて宵宮の前夜に山を降りてくるが、配下と山犬は河原へ小屋がけして祭礼のあいだ住んでいるが、村や祭礼へ
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