うけている見せ物だから、花嵐の怪力の実績だけではうけなかったのである。
ところが一夜この小屋へ花嵐を誘いにきた若い女があった。夜目にハッキリは見えなかったが、上品なキリョウのよい女であったそうだ。
「ちょッとした座興のために花嵐をかりたいが」
と一夜十円という相当な高給で花嵐をつれだした。日中でもあんまり客足のない小屋だから、夜の興行は休んで死んだようにヒッソリしている。一座の親方も花嵐も大よろこびで応じてくれた。
土地不案内の上に暗闇で分らないが、歩いで二三十分ぐらい、静かな邸内へ案内された。空家のようにヒッソリと、無人の家だ。おスシのモテナシをうけ、刻限まで寝ていてかまわないと云われるままに、そこは全然無神経な女関取、グウグウねむる。何時ごろか分らないが、さッきの女に起された。
みちびかれるままに邸をでて、手をひかれて歩いた。あッちへ曲り、こッちへ曲りして立ち止ったところで女はチョウチンをかざして、ささやいた。
「この石を起してちょうだい。シッ! 声をだしちゃダメよ。唸り声をたててもダメ。これを上へ起すのよ」
大きな石だ。大の男が五人がかりでも動かせそうもない大石。花嵐は
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