光がさした瞬間、
「ウウエーイッ」
ゴ、ゴ、ゴオーッと嵐が起って土俵上空を斬り狂う。腰の一と振りで七俵の四斗俵が縄をはずれて四方にとんだ。今やダラリとゆるんだ縄だけを胸にかけたオソメさんが、何事もなかったように土俵中央に青眼の構え。つまり、背をまるめ、首を俯向け気味に、七俵を背負っていた時と同じ姿勢で青眼にハッタと構えているだけである。
かくて数秒。不動のうちに見栄がきまる。千両役者の芝居のようにいいところだ。オソメさんの両の手にはまだ一俵ずつ残っているのだが、今やこんなのメンドウくさいやと手のゴミを払うようにほうりだして、一礼して引きさがるという次第であった。
この花嵐オソメさんを一枚看板の抜弁天一座が、芝虎の門の琴平様の縁日をあてこんで五日前からかかっていた。
今ではすたれてしまったが、芝の琴平神社と人形町水天宮の縁日は東京随一の賑いであった。浅草の観音様や大鷲《おおとり》神社の賑いもこれには及ばなかったものである。琴平神社の縁日は毎月の十日であった。
縁日を間にはさんで前に五日後に七日と二週間ちかく興行したが、縁日の当日はとにかく、成績は上乗ではなかった。ストリップ的に
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