遠江灘オタケは口に二十七貫の土俵をくわえたそうだが、花嵐オソメにとってはそれぐらいお茶の子サイサイであったろう。しかし二俵も三俵もくわえて見せる方法がないから、口の芸当はやらなかった。
その代り、四斗俵を七ツまとめて背にかついだ。四俵をタテに、その上にヨコに三俵のせて縄でからげて背負う。一俵十五貫なら百五貫だが、戦後のカツギ屋風景を見ると小ッチャクて、ヤセッポチのお婆さんやオカミサンが二十貫ちかいような大荷物をかつぎあげてそろって潰れもせずに歩いているから、女の背中と腰骨は特別なのかも知れない。死んで焼くと男と同じタダの白骨には相違ないが、女骨プラス慾念の場合には何かと何かを化合すると特殊鋼ができるような化学作用をあらわすらしいや。
そうしてみると花嵐オソメさんもさほどのこともないかも知れんが、七俵をからげてヤッと背負う。縄を胸にガンジにからめて、両手に一俵ずつのオマケをぶらさげて土俵を五周十周もしてみる。これだけでオタチアイのドギモは存分に抜かれているのだが、その次ある事が余人の及ばぬ荒芸なのである。
土俵中央に立ちどまり、土をふんまえて呼吸をはかり、満身に力あふれて目玉に閃
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