様には分らぬ符号でみんな印してありますから調べてお知らせ致しましょう」
「それは実に幸運でした。私の仕事では、そのようなちょッとしたことから春の訪れを見る例が多いのですよ。最後に一ツだけ、特にメンミツに本当の事実を思いだして教えていただきたいのですが、若奥様とあなたのほか、もしや他のどなたかにふとこの秘密を口外なさったことはございませんでしたか。それを慎重に思いだしていただきたいのですが」
「他に一人だけ、たしかに、私が口外いたしました。私の一子で、杉山一正と申します。手紙とお金との引き換えの使命を無事果すのが不安のために倅に同行護衛をもとめたのが事の起りですが、わが子の自慢とお笑いかも知れませんが、親の慾目ながらも、これにまさる頼もしい男の心当りもなく、秘密をうちあけて裏切ることのない心当りの者も他にないと思い定めたすえに、生活の幅も目の届く幅もせまい女の判断ではありますが、わが子一正にだけは秘密のあらましをうちあけてしまったのです。まさか母を裏切ることがあろうとは信じられませんが」
「杉山一正と仰有るのは、拳法体術の達人と名の高い杉山先生ですか」
「その杉山一正です」
「立派な御子
前へ
次へ
全64ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング