した。私がチヂミ屋の総領と結婚した理由と同じように、チヂミ屋の財産と私の生家と濃いツナガリをもつ必要のためにです。天下|名題《なだい》の貧乏男爵家ですから。ですが私の結婚だけでほぼ事足りていたようですから、兄は結婚の気持もなかったかも知れません。チヂミ屋は半年前に没落しましたから私は離婚を命じられましたし、兄は申すまでもなく結婚いたしませんでしたから、結果は兄の本心通りに現れたと申せましょう。もともと手近かに在るから手をだして弄んでいただけなのです。小花さんがなぜ御当家を選んで女中となったか、なにかフシギなツナガリはございません?」
話の途中から元子夫人の美しい顔が蒼ざめて、はげしい衝撃のために、身のふるえの起るのが認められた。
政子のきびしい視線は、そのいたましい様を見てたじろぐことがなかった。そして猟犬がクサムラをわけて突き進むような鋭い追求の語気をはり、
「脅迫の手紙の文字や文章の変化にお気がつきませんでしたか」
「それを疑う理由がありましょうか。脅迫をうける私の身には、悪い人の片目を思いだすのも怖しいばかりです」
「新しい脅迫状を見せて下さい」
「用がすみ次第、地上に跡形も
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