子さまを脅迫すべき秘密の品物の包みを失っているのです。それにも拘らず脅迫はくりかえされ、元子さまは金と引き換えに秘密の品を入手していらッしゃるのです。すると……」
「どなたの手に品物があるにしても、私にとっては同じことです」
「そうでしょうか」
 政子はちょッと考えていたが、
「当家でハナ子とおよびの女中はいつから働いておりますか」
「当てにならない記憶ですが、三四ヶ月、四五ヶ月ぐらい以前からかも知れません」
「女中の身許を御存知でしょうか」
「当家の者の中にそれを存じてる者が他におりましょう。杉山さんのお話では、当家出入りの呉服商人が身許を保証して頼んだものとか承わっております」
「杉山さんとは?」
「私の御相談相手の御老女」
「出入りの呉服商とは、日本橋の伊勢屋?」
「そうです」
「たぶんそうと思いました。あの女中は日本橋の呉服問屋チヂミ屋の娘小花と申す者で、一度は私の妹でした。なぜなら、半年以前まで、私はチヂミ屋の総領のおヨメでしたから。小花さんは同じ町内の伊勢屋の娘とは同窓で、特別親しいお友だちでした。そして半年前までは、ひょッとすると小花さんが兄のおヨメになるかも知れない人で
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