「誰だい? 身分の高い人とは?」
「云っちゃ、いけなくッてよ。あの人がウッカリ私に威張って教えただけの秘事だもの。男ッて、そんなことまで偉そうに言ってきかせたがるのね。でも、羞しいわね。兄さんに聞かれたなんて」
「ナニ、ハマ子もきいていたぜ」
「じゃア、あなた方は隣室でアイビキしていたのね」
「あの最中にアイビキなんぞできるものか。オレがふと気がついたら、猫のように音もなく、ハマ子が傍に立っていたのだ。まア、以心伝心はそのせいかも知れないな」
と久五郎は赤くなって口ごもった。バカのように満悦の態がイヤらしかったから、小花は癪にさわって庭へとびだした。
しかし、この侘び住居も安住の地ではないらしかった。どうやら新しい生活になれそめたころ、乞食男爵の三人組がそろって姿を現して、
「隠し持った品々オタカラの類をそろそろ取りだしたころではないかい。ちょッと探させてもらうから一室へ集まってもらうぜ。先の書附にも慰藉料の一部分として五万円とこれこれの品を受けとったとチャンと書いてある通り、残りの分をもらう権利があるのだから仕方がない。この家屋敷をそッくり貰うこともできらアな」
半日がかりで邸
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