活である。小花は腹にすえかねて、
「なんて悪党なのよ、あんた方は。昨日まで私をだまして何食わぬ顔はどういう意味? 私は他人だというわけなのね」
「そうじゃないよ。オレとハマがこうなったのはだいたいのところ昨日からで……」
久五郎はてれたのかモグモグと言葉をにごした。
「ウソですよ。私だって子供じゃないわ。昨日からの仲でないぐらいは、昨晩の様子で分りますよ」
「それがその以心伝心なんだな。オレが思い、アレが思い、たがいにそれがこゝに移り住んでピッタリ分ったから年来の仲のように打ちとけたのだが」
と久五郎は赤くなって口ごもった。ハマは黙々とニヤついて、悠々たるもの。やがて久五郎はわびしく苦笑して、
「しかし、お前もオレに隠して乞食男爵の倅とできていたじゃないか」
小花はグッと胸にこたえたらしいが、
「兄さんは知っていたの?」
「イヤ。先日、お前と周信が奥の一室で言い争っているのを偶然きいてしまったのだ」
小花はまッかになった。
「こんなふうになるらしい予感もあったし、羞しくッて隠していたのです。あの人にだまされたのは私ばかりじゃないわ。モッと身分の高い人も、その他、大勢いるのよ」
前へ
次へ
全64ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング