おののく野獣のような落着きのない挙動に変った。いっぺん積み込んだものを引きずり下して、全部改めてみたが、更に奥の部屋々々へ走り、政子に指図して、あれを倒し、これをひろげ、ひッくり返したり、まくってみたり、タタミが帳面のようにめくれるものなら、それすらもタンネンにめくりかねないほど気ちがいじみていた。
「畜生め! あれを盗んだのは誰だ。今に思い知らしてやる!」
 ついに盗まれたと断定して、家の者全員を一室にカンキンして、家の中を全部しらべたが、どこからも目当ての物は出なかった。いッぺん調べた部屋も安心できないらしく、引返したり、走り去ったり、上を改め下をくぐり、邸内くまなく調べたが、ついになかった。全員の身体検査もムダであった。
「人に盗まれる筈のないものだと思うが、お前の記憶ちがいじゃないか」
 こう云われて政子は気色ばみ、あわや兄妹の喧嘩になりかける形勢に、年功の周信、これはマズイと悟ったらしく、にわかに切りあげて、三人組は荷車と一しょに引き上げてしまったのである。

          ★

 久五郎と小花は今はのこされた唯一のもの、芝の寮へ移りすんだ。女中のハマ子だけが、自分の荷
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