横綱と取的の勝負のように、てんで問題にならない。乞食男爵の正体バクロして一族三名小娘に投げとばされたように見えた。
「それ。人足をよんで、荷を運ばせろ」
 周信はいまいましげに政子に目くばせして云った。荷車をひいた人足をつれて来ているから、ただちに積み込みがはじまる。周信は積み荷に一々視線をくばりながら、政子に向って、
「オイ。オレのあれはどこへ包んだ? マチガイなくあるだろうな」
「私の着物類と一しょに、この包みの中」
「どれ?」
 周信は中を改めていたが顔色が変った。
「ないじゃないか」
「どうして? アラ、ほんと。ないわ」
「たしかにこの中へ入れたのか」
「いいえ、これと一しょにタンスへ入れておいたのよ。その中のものをそッくり一包みにしたから、この中にある筈だと思うんだけど」
「じゃア目で確めてみなかったのか」
「このフロシキをひろげた上へタンスのヒキダシを順にぶちまけただけよ。そしてそのまま包みを造ったんですから、こぼれる筈はなし、有るものと信じていたわ」
「きっとそのタンスか」
「まちがいないわ」
 どう探してもそれが見当らないと分ると、周信の顔色の変りよう、一気にして不安に
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