と、生糸が暴落を重ねているのも事実であるし、日本の市価と関係のない金額で外国商人が取引するのも例のないことではなく、むしろ、それがあるために生糸貿易というものが巨大な利益をもたらす場合が多いということなどが分った。
そこで久五郎は内心大いによろこび、あとの要心は多門にだまされない分別だけであるから、彼と会って、
「あなたの買い値二百七十円は高すぎる。今の値は百八十円だから、二百円といきましょう。それでも四万円という大モウケではありませんか」
「ペルメルの契約を失う損にくらべれば、十万二十万のハシタ金は物の数ではありますまい。あなたにとっては、私に十万二十万もうけさせても、ノミに食われたぐらいのものじゃありませんか」
たしかにそうだが、理に屈して値切らないようでは商人で身は立たない。けれどもあとのモウケが確実ならばと久五郎も察して、二百五十円で手を打ってやった。その代りに、と久五郎はニッコリ笑って多門を見つめて、
「私の支払いも品物引渡し完了の後ですよ。ですから、明日にでもここへ品物が届き、中を改めて間違いなければ、即座に支払いします。一々中を改めた上で、ですよ。元結や石炭や鉄がつま
前へ
次へ
全64ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング