れば自分のモウケはないようだが、その金で今の安値のものを仕入れて騰貴を待てば一応モウケはとれるから、というのである。
「横浜へ御案内しますから、ペルメルに会ってごらんなさいまし。支払いは品物引渡し後と云っても、困るのは貧乏人の私だけで、お金持のあなたなら、残りの十五万斤を百斤百八十円の安値でいくらでも買えるのですから、大モウケは目の前にぶら下っているのです」
本当なら耳よりな話だが、商家に育った久五郎、もとより口先一ツで信用はしない。とにかく横浜へ同行しましょうということになった。
ペルメルに会ってみると、話はたしかに確実で、多門の云った通りであった。
証文は三十五万斤で、百斤につき四百五十ドル。百斤ごとに一箱につめて、三千五百箱、その引渡しが全部完了の上で現金支払いをする。
「但し、ですね。日本人生糸商人、ずるい。箱の中に元結《モトユイ》つめる。もっと悪い人、石炭、鉄つめる。そして、百斤のうち十五斤、二十斤ごまかす。もしもそれしたら、一文も払いません」
ペルメルは要心深げに目を光らせてジッと久五郎の顔を観察して云った。即答をさけていったん久五郎は東京に戻った。そして調べてみる
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