らん」
お札を由利子に持参させて眺めていたが、火鉢の火を掻き起して、その中へお札を投げこんだ。厚紙だから燃え上るのに手間がかかって、部屋は煙で目もあけられない程になった。それでも、ようやく焼き捨てた。
「タタリというのは、これだけだ。オレを泣かせやがったよ。オーカミイナリは」
久雄はそれ以上の関心を全く払わなかった。そして、その一夜は無事にすぎた。
翌日の午すぎて、父は酔って帰ってきた。そして、ただちに寝床をしかせて寝てしまったが、一同の夕食がすんだころに目をさまして、洒を命じた。
由利子自身酒肴をととのえてお酌をした。由利子にだけは優しい父だった。
お札のことを父にきかせてはいけないが、オーカミイナリは気にかかる謎であるから、訊かずにいられない。
「オーカミイナリって、賀美村のオイナリ様?」
由利子が相手なら、酔えば酔うほどキサクい父である。彼はクッタクもないらしい。
「オーカミイナリというのは邪教だよ。オレだけはその系図や古文書と称する物を見て知っているが、自分で拵えたニセモノさ。拵えてから六七十年はたっているかも知れんが、それを二千年も昔からの物だと言いふらしているの
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