明治開化 安吾捕物
その十七 狼大明神
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)流連《いつづけ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)再々|強談判《こわだんぱん》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「髟のへん+瓦」、第4水準2−81−15]
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庭の片隅にオイナリ様があった。母が信心していたのである。母が生きていたころは、風雨に拘らず朝夕必ず拝んでいた。外出して夜更けに帰宅することがあっても、家人への挨拶もそこそこに、オイナリ様を拝んでくるのが例であった。朝夕の参拝を果さぬうちは、昼と夜の安らぎが得られぬように見えるほど切実な日参だった。しかし、母以外の者は一人も拝みに行く者がなかった。
母が病床についてから死に至るまでの一月ほどは、由利子が朝夕代参を命じられた。
死期をさとると由利子に遺言したが、それは正しく生きよという女大学の教訓と同じようなものであった。ところが終りに、
「あなたがお嫁に行く日まで、オイナリ様
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