のがまだよく見える時刻でした。さすれば彼がその足で古墳に向ったのではありますまい。どこかへ立ち寄りクワだのガンドーだのチョウチンを持って出た。ガンドーとチョウチンを一人が二ツ持つことも変ですね。しかも金箱を盗む時にカゴを持ってでた定助が、殺された日に家をでたときは手ブラでしたし、古墳の中に彼が残した品々にも何物かを運ぶための道具はありませんでした。さすれば彼はここから何かを運びだすためではなかったでしょう。彼の掘りかけていた穴はまだ小さかったが、後で人々が四周の土を全部掘り返してみても何も出なかったそうですから、そこには元来何もなかった。彼らが盗みだした金箱の一時的の隠し場所もそこではありますまい。そして一時的にどこかへ隠した金箱はとッくに蛭川家の土蔵の中へ運びこんでいたでしょう。ですから彼らが古墳の中に穴を掘っていたのは、そこからある物を掘りだすためではなくて、そこへある物を埋めるためであったでしょう。しかし何物も埋める物は置き残されていなかった。それは何かを埋めることが正しい目的ではなかったからです。しかし定助は穴を掘りかけていました。つまり、そこへ何かを埋めるということは、定助に
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