土蔵破りの犯人は伊之吉の父ではないでしょうか。蛭川真弓はそのカゴに無関係に思われますが」
「左様です。そのカゴにはたしかに無関係でした。たぶん犯人はそのカゴで何回か土蔵から出入して、盗んだ金箱を一時的にうめておく場所との間を往復したと思いますが、盗む金箱がなくなった後にも知らずにノコノコやってきて、カゴをすてて手ブラで帰るでしょうか。盗むべき金箱がまだ有ることを知らなければ土蔵へ戻りやしないでしょう。ところが一ツのカゴを置き忘れた以上は、それが不要であったことは確実ですが、金箱一ツでも小脇に抱えて持ち去るよりは背負いカゴに入れて逃げる方が楽でしょう。さすれば不要のカゴのほかにたぶん他のカゴがあって、一ツのカゴは不要であったと見るべきでしょう。そして一人の人間が二ツのカゴを背負うことはできません。一人が伊之吉の父と分れば他の一人が誰であるか、それは別の事から分ってくるのです」
 新十郎は聞き耳をたてる人々にたのしそうな視線をそそいだ。
「定助は殺された日に限って野良着に着かえて日の暮れ方に家を立ち出ましたが、自分の畑を通りこして、もっと先の方へ立ち去りました。しかも野良着の姿で歩いている
前へ 次へ
全55ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング