戻ってきたのです。さて、それでは伊之吉君のお説によって、加治さんの話をきいてみようではありませんか」
 一同は加治の小屋を訪れた。新十郎が東京に起った神の矢殺人事件をのべて、伊之吉が残して去った手紙を見せると、老人は読み終って、なんとなく意外の顔だった。
「そうでしたなア。私の小屋が風で倒れた晩に彼の小屋に泊めてもらって語り合ったことはありましたよ。すっかり忘れていましたね。しかし私は別にあの男の父を殺した犯人の手がかりなぞを語ったとは思われないが、この手紙にあるように、土蔵破りの犯人が残して行った品であるとすれば、それは古ぼけた背負い籠ですよ。それはどこのウチにもありふれた品物で、犯人の遺留品だということは数月間気附きませんでした。土蔵の内部に捨てられていましたが、盗まれた金箱の位置から離れた片隅に放りだしてあったせいです。そして気附くのがおくれたから、この遺留品は村の人々にも知れ渡っていませんのです」
 新十郎は満足で充ち足りてうなずいた。
「それでハッキリ分りましたよ。彼が父殺しの犯人をさとったのは、伊之吉のウチの背負い籠がなくなっていたことを良く記憶していたせいですよ」
「では
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