ったのです。加治さんの口からそれをお訊きになればお分りになるでしょう。私は計画をねり、三度も東京を往復して充分に成算を得た後に、彼が父を殺したように私が彼を殺しました。私は彼を殺したことが悪いこととは思いませんので、山人とともにここを去り、永久に山から山に移り住んで一生を終ります。たぶん私を捕えることは不可能でしょう。なぜなら、ある種の人間にとっては山は無限の隠れ家だからです。伊之吉より」
新十郎は一同を見まわして、
「彼がどうしてこの置き手紙を残して行方をくらますに至ったと思いますか」
「あんたが神の矢と面を盗んだからさ」
虎之介がいらだたしげに言った。新十郎は首をふって、
「とんでもない。私が神の矢と面を盗んだだけなら、盗んだことが誰にも分る筈がないではありませんか。あの自信たっぷりの妙な天狗は矢の数を改めてみる筈はないし、面の数はほとんど無数ですからね。彼が置き手紙を残して逃げた理由は、ほら、これですよ」
彼は小屋をでて戸を閉じてから、その戸の一点をさした。そこに何かの傷跡があった。
「私が盗みだした神の矢は二本です。そして、一本は、私が力一パイ投げつけてこの戸に突き刺して
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