願い致しますよ」
と新十郎に笑みかけられると、虎之介は暗い顔で重々しくうなずいた。全然自信がなくなった様子であった。
★
翌朝一行は里人に道案内をたのんで山の中へわけこんだ。曲りくねった山の小径を三時間ほども歩いて、ようやくオーカミイナリの本拠に辿りついた。山の山頂にちかいちょッとした平地で、そこに大神の子孫と称する神主の住宅をめぐって、十いくつかの掘立小屋がテンデンバラバラたっていた。ここに住みついた信者の住居だ。イナリのホコラはそこから更に五六町の山上にあった。
神主の住居だけが家らしい建物であるが、それとても木と木の皮でつくられたもので、壁というものがない。
彼らは神主に対面して、おどろいた。なるほど、まったく天狗の顔である。お面の天狗ほど長い鼻ではないけれども、剣客詩人シラノどころの鼻ではない。そして、これを典型的な金ツボ眼《まなこ》というのであろうが、二ツの円い噴火口のようなクボミが並んで、その奥に円い目玉がギラギラ光っている。顔の色はたしかに渋紙の色にちかかった。
天狗は一行を迎えて、自分は大ヤマト大根大神の子孫、大加美太々比古であると名乗
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