タはまだ五ツの倉にある筈です」
「殺された番頭定助の遺族はどうしておりますか?」
「数年前に未亡人も病死しまして、一人息子の伊之吉というのが残りましたが、母の死後いずれへか行方知れず立ち去りました」
土地の古老もオーカミイナリについては多くのことを知らなかった。
新十郎一行は賀美村を去り、加治家の跡をすぎ、定助の殺された古墳も一見して、夕刻に太駄の里についた。ここが山のふところの最後の里だ。ここから街道をすてて山中へわけこむと、オーカミイナリがあるのだ。ここの里人に訊いてみても、オーカミイナリのことはよく知られていなかった。
「この里の者でオーカミイナリの信者も一名だけでましたが、信者になると山へこもりますので、そッちへ住みついてしまいましたよ。諸国から信者が集ると申してもごく少数で、この里を通って山へわけこむそれらしい人の姿を見かけるのは年に四五十人とのことですよ。阿久原の方からの参詣人はここよりも多いという話です」
これぐらいしか分らない。あとは天狗の本拠へ乗りこむ以外に手はなかった。
「いかなる魔人魔術が行く手に待ちかまえているか知れませんね。その折は、泉山さん、よろしく御
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