る。どういうワケでそんなところに穴を掘っていたか、誰にも見当がつかなかった。そしてその後、定助の掘りかけていた小さな穴の四周を人々が大がかりに掘ってみたが、何一ツ現れてこなかったのである。
「誰云うとなく村の噂が語り合ったものですが、加治さんの土蔵から神の矢の主が持ち去った黄金がオーカミイナリの祖神のミササギと称するものの中に隠されているんじゃないかと推量した定助が深夜掘りにでたものではないかというのです。しかし、確かなところはむろん誰にも分りません」
「その古墳は定助の家の近くですか」
「いえ、いえ、はるか遠く離れております。先程も申上げましたように、蛭川さんや定助の住む賀美村は郡の一方のはずれで、その反対のはずれに当るオーカミイナリとは郡内で最長の距離があるのですが、その古墳は両者からほぼ中間に当っていて、定助の住居からもオーカミイナリからも大よそ三里あまりあるのです」
「黄金を盗まれた加治家の位置はどのあたりですか」
「それが古墳に近いのです。十二三町はなれていますが、加治家は古墳よりもその十二三町だけ賀美村の方角によっております。つまりオーカミイナリが加治家から黄金二十二箱を盗
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