ませんが、しかしその晩古文書を改めた人たちは、蛭川さんを除けば、とにかく好事家で、長年の間、村内のそういう物を好んで探しだして読み漁ってきた人たちなのです。で、その人たちの見たところによると、一見してニセモノで、村名なども今の文字で書いてある。和名抄《わみょうしょう》にでてくる古い村名でなく今の名や文字で記されているというヌカリのあるニセモノだったそうです。ですから天狗の強談判がはじまると人々は、蛭川さんにいたく同情したものですよ。しかし、身からでた錆で、それがついにはかほど大事に至ろうとは思いもよらなかったことでしょう。ウカツにイタズラはするものではありませんな」
「まもなく番頭の定助が殺されたのですか」
「では記録を調べてお答え致しましょう」
古老が記録を取り寄せてくれた。
定助が殺されたのは火事のあと一月ほど経ってからのことだ。殺された場所がオーカミイナリの古文書に祖神のミササギと称している古墳の中であった。背から胸へ神の朱の矢で射ぬかれてことぎれていた。フシギな場所で死んでいたが、さらにフシギなことには、彼はクワを握り、古墳の中で穴を掘っている最中に後方から射殺されたのであ
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