何かの根拠だけは有るかも知れんということを考えた人もあった。彼の祖神は大ヤマト大根大神だと云うが、この土地の由緒ある神社の一ツに長幡部《ナガハタベ》神社というのがあって、祭神は日子坐王子《ヒコイマスミコ》の子の神大根王だという古伝が残っていた。人皇九代開化天皇の子に日子坐王子があり、神大根王はその子で、三野国造《ミヌのくにのみやつこ》、長幡部連《ナガハタベのむらじ》等の祖であるということは古事記に現れている。まさにこの地の長幡部神社が神大根王を祀るという古伝は史料に合うが、オーカミイナリの大ヤマト大根大神が同一神だという証拠はどこにもない。
里人はオーカミイナリを信用せず全然相手にしないから、その古文書など誰も問題にしないが、オーカミイナリにとってはこれが焼失しては天下の大事であったろう。神主が怒り狂ったのは当然であった。
新十郎一行は当時の事情をよく知る村人に会ってその話をきいた。古老は語った。
「この郡に加治景村、蛭川真弓という二軒の大金持があったのですが、そのいずれも神の矢に呪われて亡びましたかな。本当に神のタタリなら怖しいことですな」
「すると神の矢に殺されたのは蛭川家の人
前へ
次へ
全55ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング