何々党をたてて遂に神の子孫を追うに至ったとき、神の子孫は従者に多くの黄金を背負わせて、いったん赤城山中へ逃げこんだ。そして黄金を地下に隠した。従者はひそかに村へ戻って五ツの北向明神を建てたが、この明神はいずれも北方赤城の方に向っている。そして五ツの向う正面を合せると、黄金を埋めた地点になるのだという。ところが北向明神は二社ぐらいしか残存せず、他の失われた所在地は今ではもう分らない。しかし、オーカミイナリに伝わる古文書の一ツによると、五つの所在地も図に示されていると称するのである。
こういうことを言いふらすから、いつからか黄金をさがす山師だの山男の信仰を集め、むしろ遠方に信者があった。土地の人たちは殆ど相手にしなかったのである。オーカミイナリが自称する彼の祖神の話は村々の文書にも伝説にも一切現れず、他の神社に伝わる話に比べても概ね食い違っていたからだ。
しかし村の古文書には現れないが、ここや秩父の神の系譜が一風変っているらしいのは事実であろう。今に残る地名などから考えても、相当な神の一族が土着したかも知れんということは考えられるから、オーカミイナリの自称する神話の多くはインチキでも、
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