の趾だという伝えはオーカミイナリが自ら称するだけであった。
ところがオーカミイナリはそれを証する古文書も古代の地図及び神域や社頭の絵図面も有ると言う。彼の先祖は大倭大根大神という神で、日本全体の国王であったが戦い敗れて一族を従えてこの地に逃げ住んだ。ところが後世に至って、臣下の子孫が児玉党、丹党、猪俣党などを称し、総家たる大加美神社を焼き払い、神たる人の子孫を追った。神の子孫は若干の古文書だけからくもフトコロに、少数の従者をしたがえて山の中へ逃げこんだ。それがオーカミイナリである。
長い歴史のうちに少数の従者すらも離れて里へ降りてしまい、神の子孫だけが山奥に残って小さなイナリのホコラをまもり、太古からの祭りの風を伝えているという。
しかし、土地の古老の話によると、あの山奥に天狗のような顔つきの家族が住んでいることは七八十年前にようやく村人に分ったことで、オーカミイナリなぞと云うのはそれからの存在だと云っている。
金鑽神社というのは金や銅の神社だ。オーカミイナリはこの神社も、ミカ神社も、北向明神もみんな自分の配下で、北向明神というのは坂上田村麻呂の創建というが、実際は臣下の子孫が
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