からが大変で、自ら大神の子孫と名乗り特別の由緒を言いふらしているイナリですから、その怒りが一様ならぬものであったことは当然です。いかに当家が詫びてもきき入れませぬ。再々|強談判《こわだんぱん》を重ねたあげく、一夜のこと当家先代の番頭今居定助と申す人がオーカミイナリの先祖の古墳と申すところで神の矢に射ぬかれて殺されておりました。今回と同じように朱塗りの独特の矢で、また、屍体の顔にも今回と同様に猿田の面がかぶされておったそうです。ところが当日はオーカミイナリに祭儀がありまして、神主が深更まで神前に奉仕しておりましたのを多くの拝詣人が見ておりますので、彼が犯人でないことは明らかになりました。オイナリ様直々のタタリだということになりましたが、当家が故郷をひき払って上京したのは、これが原因で、どうしても居たたまらなかったのでしょう。上京後、当家に於ては、オーカミイナリの名を口にすることも慎しみ怖れておりましたのです。なくなった夫人が庭にイナリのホコラをたてて朝夕の参詣を欠かさなかったのも、そのタタリを怖れてのせいでした」
「上京後もオーカミイナリの強談判はひきつづいていましたか」
「私が当家へ参
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